DIGITAL CREATOR FILE 佐藤理 SATO OSAMU "奇抜"と形容されることが多い彼の作品群。発想の原点はわれわれが子供のころに遊んでいた"粘土細工"にある⁉︎ 撮影/松浦文生 ラフ像を描かず、今自分が良いと思うモノをつくる感覚 "粘土をこねて何かをつくろう‼︎"と聞くと、何も考えずに思いついたものをつくっていた小学校の図工の授業を思い出す。固定観念に縛られていないあのころを。実はこの作業こそ佐藤氏が作品を創造する原点である。 広告のデザインや雑誌のアートディレクションを行なってきた氏は、ソニー・ミュージックエンタテインメント主催の『デジタル・エンタテインメント・プログラム』で最優秀作品に選ばれたアドベンチャーゲーム『東脳』を'94年にCD-ROMで発売して以来、右にあげたように様々なCD-ROM作品を生み出している。 さらに今年は家庭用ゲーム機専用ソフトを発売。ほかにも本業であるグラフィック・アーティストとしての作品集や音楽CDも出しているが、電脳創造者としてふさわしい人物であることは間違いない。その作風を見てみると幻想的で奇抜なのが特徴。1歩間違えれば単に"カルト"とくくられてしまうほど、特異である。 しかしみなさんご存知のとおり、同業者を含め、各方面で多大な評価を得ている。つまりは受け入れられているのである。なぜ? 「例えば粘土で何かをつくろうとしたときに、あらかじめラフ像を頭に描いてつくるのではなく、こねているうちにでき上がっていく。この感覚が学生時代からボクの中にある創造の原点だと思う。"何から描こう"とか"何からつくろう"と考えてからつくり出すのではなく、そこにある素材を、例えばコンピュータであればソフトの機能をいかしていじくりまわしながらつくっていく。そこに面白味がある」。氏はこの作業を「コンピュータと画面を通じて対話している感覚」で行なっている。 子供のころ、だれもが持っていた「好きなものをつくりたい」という最も単純な動機。本能に基づく偶然の産物としての作品は、子供がつくる粘土細工のように奇抜で幻想的であり、かつて子供だった大人たちに受け入れられるのは当然なのかもしれない。 彼はこれからも粘土をこねるように「今の瞬間、自分にとっていちばん良いと思うモノを積み重ね」ながら、作品をつくり続けて行くだろう。どんなモノができるのか、自分自身で楽しみながら……。 文/上野充昭 [screenshot caption] プレイステーション用ソフトとして今年発売されるドリーム・エミュレータ『LSD』(発売日未定)。事務所 のスタッフが7年間に渡って書き記した夢日記を基に描かれた世界を探索するソフト。プレイヤーはただ歩きまわり、そこで起きる出来事を傍観するだけなのだが、バックで流れるミニマルサウンドと佐藤氏がイメージしたグラフィックの中で様々な心理状態に。計しくはhttp://www.compu-lsd.com/まで。 ©︎ASMIK/Outside Directors PAST WORKS PON CHO Jumping Jack Bu ROLY POLYS 左上『ローリーポーリーズの七転び八起き』と、右上『バナバナ1号〜ローリーポーリーズの世界大冒険』。共にエデュテイメントソフトとして'97年に発売された作品。©︎1997 SHINKO MUSIC PUB.CO.LTD 東脳 '94年作品©︎1995 Sony Music Entertainment(Japan) 中天 '95年作品©︎1995 Sony Music Entertainment(Japan) PROFILE グラフィックアーティスト。'60年京都生まれ。京都エ芸繊維大学、嵯峨美術短期大学卒業。広告製作会社を経てデザイン会社を設立し独立。最近はコンピュータとは対極にある、本人いわく「面倒くさい」油絵に興じているとか。 URLはhttp://www.compu-osd.com/