夢を歩くLSDを生み出した佐藤理氏インタビュー 感性とゲームとメーカーの関係 デザイナーとしての感性をゲームに盛り込み、常に新しいものを目指す佐藤氏。佐藤氏とゲームの関係、制作会社とメーカーとの理想的な関係を聞いてみた。 デザイナーとしてゲーム業界で佐藤氏が考えていること 佐藤氏とゲームの関係 ⸺ます、OSDは、どういう経緯でゲームを作ることになったのでしょうか。 佐藤:そもそも、OSDは、広告、CDジャケットやポスターなどの制作を行っているデザイン会社です。そのほかにも、編集やプロモーションビデオの監督とか、僕自身デザイナーとして本当にいろいろな仕事をしています。そのデザインをするときに、コンピュータを使うようになり、いろいろなことができることがわかってきました。そして、そのうちデザインの延長でインタラクティブな作品を作り始めたんですよ。さらに、現行PSで新しいことができそうな雰囲気もありましたし、社内にはゲーム好きの連中はいましたので、じゃあこう言うの作ろうかって言うのがみんなから出てきて、紆余曲折ありながら今にいたるというような感じでしょうか。 ⸺ゲームとそれまでに行っていた仕事と違うところとかありますか。 佐藤:仕事の内容にさほど違いはありません。広告はクライアントがいてその意向が大切ですが、ゲームの場合は、不特定多数のユーザーを考えて制作していかなくてはならないというのが大きな違いですね。また、広告であっても広い意味では同じですが、売ることにパワーを見出せる人、あるいはアーティストとして自己の表現としてそこに一番パワーを使える人がいます。そこをバランスよくやっていくことが、商品としてのものを作るうえで重要なのかな、と思ってはいます。やりたいことだけやるだけでは、結局ひとりよがりなゲームになってしまいますので。 ⸺OSDのPSソフトLSDの企画をゲームにしようとした理由はどこにありますか。 佐藤:いろいろな人がいるでしょうが、僕はひとつのゲームに何日も何十時間もかけて遊ぶということが好きではありません。ゲームを作るのであれば、さくっと遊べてさくっと終われるようなものを目指そうと。LSDはそれを一番特化させた、逆にプレイヤーには絶対何もさせないというコンセプトがありました。とりあえず歩くだけで楽しい、天気がいい日に散歩すると楽しい、そういう喜びを表したかった。技術やいろいろな要因で、やり切れてはいませんが。また、音楽や映画、そのほかいろいろなところで、メジャーじゃなくても、小さくてもおもしろい物はありますよね。ゲーム業界には、そういうものが出にくかった土壌があるんで、僕らはLSDに価値を持ったシステムを、インディーズライクな物を用意して、そこを突破できる方法論を見つけていきたいとは思っています。僕がやるべきかどうかはわかりませんが、そういう部分をやる人がもっとゲーム業界にいて欲しいとは思いますね。 アスミック・エース エンタテインメントとOSDの微妙な関係⁉︎ ⸺ソフトメーカーとクリエイターの理想的な関係はどういうものなんでしょうか。 佐藤:僕らクリエイターからいう理想と、ソフトメーカーがいう理想とでは違うと思います。僕の立場からいわせてもらうと、湯水のごとくお金を使い、制作が遅れても文句をいわず、作品ができたらテレビでバンバン宣伝してくれるというところが理想ですが、そんなところはありませんね(笑)。ただ、LSDという特異な企画を一緒にやろうといってくれた、アスミック・エース エンタテインメントとの関係に関していえば、まずLSDのようなソフトを出せる土壌を作ってくれたということに、すごく感謝しています。普通のゲーム会社であったらLSDなりの企画をもとに発展させた売れ線企画を立てるでしょう。だけど割と僕の話を聞きながら本当に実験してくれたんですよね。制作面でも、割とクリエイターというものを理解してくれ、お互い手探りでやっていけました。普通のソフトメーカーなら、売れるためにという公式に当てはめて制作することになるでしょうし、そうなると僕のやろうとしているような企画はできなかったと思います。一番いいのは、こういうものもあっていいのではないか、と思ってくれる余裕みたいなところですよね。これは文化がいろいろ発展していく段階で必要だと思っています。アスミック・エース エンタテインメントは、映画でもミニシアター系の作品などにも力を入れていました。そういう小さくてもおもしろいものに投資をされてきた会社なので、先進性がある会社なのでは、と思いますね。やはり、始めなくてはどうにもならないわけですから、クリエイターとしてやりたいことができた理想的な関係であったと思いますよ。 ⸺これからもゲームの制作を予定されているということですが、どのような作品を作っていくつもりですか。 佐藤:プラネトキオの次には、僕がデザイナーとしての集大成としての作品を目指しています。さらに単純だけど普遍的でゲームとしておもしろいという、僕のなかにあるゲームへの考え方を集大成したものも含めたゲームにしようとしています。アイディア的にも新しいと思いますし、自信がありますので期待してください。 デザイナーとしての集大成、ゲームへの考えを集大成したこれから公開される最新作を楽しみにしていてください ⸺現在、ゲーム制作もすべて社内で作業をやられていますよね。 佐藤:いまのところそうです。音楽から最終的なパッケージにいたるまで、全部社内で制作しています。基本的にはクリエイターとかアーティストとかでいたい部分が大きいので、自分たちのやりたいことができるくらいの人数以上に会社を大きくして、ゲームにかけようということは考えていません。10人前後の集団で、みんながやりたいようなことをやるのが理想だと思っています。あんまり工場みたくしたくないですね。基本的には、自分の能力でいろいろできるもののひとつがゲームなので。ただ、やると決めたらそれを一生懸命やるというスタイルですから。 ⸺アスミック・エース エンタテイメントと作業をされていて、衝突とかはありましたか。 佐藤:それはありません。無茶を言わず、できることとできないことをわきまえつつ、お互いがんばるというようなノリでやってますよね。もちろん、制作上出てくる問題はありますが、衝突というほどのものではなかったですね。 ⸺次世代PSでは、ずいぶんと制作環境自体も大規模に変わってきますよね。 佐藤:小規模の会社だといままでのように全部をやるというわけにはいかないでしょう。別の会社と組む場合には、どこが主導権を持って、きちんとプロデュースしていくかを考えなくてはなりませんし大変ですね。確かにLSDのコンセプトで、次世代PSの実力を100%引き出せるスタッフが関わって制作できれば、きっとすごいものができると思います。多分、既存のゲームとは違う、何らかの別のエンターテイメントを作り出せる可能性はあるでしょう。すぐに制作できるだけの資金とか、いろいろな問題がありますので、いまのところは考えているだけですが。ただ、次世代PSになってSCEIがいうような新しいエンターテイメントみたいなもののひとつとしてLSD的な感性はありだと思っています。それをやる機会があればやってみたいですね。 [page 94 bottom left] (有)OSD(アウトサイドディレクターズカンバニー) グラフィックデザイナー 佐藤 理 プロフィールにあるとおり、デザイナーとして多岐にわたって活動中。ゲームでは、感性を活かした独特な作品を生み出す。 [page 95 top right] 佐藤 理 プロフィール 1960年4月14日、京都生まれ。京都工芸繊維大学、嵯峨美術短期大学卒業。(株)モス・アドバタイジングを経て、1988年にオサム・サトウ・デザイン室を設立。のちに、(有)OSDに社名を改め、現在に至る。 ●編・著作:「CompuDesign-カタチの発想法-」(グラフィック社刊、2,800円)、「LOVELY SWEET DREAM」(メディアファクトリー社刊、1,800円)など ●音楽CD:「TRANSMIGRATION」(発売SME、2,500円)、EQUAL (発売SME、2,800円)、LSD AND REMIXES (発売ミュージックマイン、2,800円) ●ビデオ「CompuMovie」(発売OSD、5,000円) ●ビデオCD:「TheEsotericRetina-秘密の網膜-」(発売SME、4,800円) ●MAC&WIN CD-ROM:「東脳」、「中天」(発売:SME、各7,800円)など ●受賞歴:1992年アドビデザインコンテスト'92特選受賞、1993年デジタル・エンタテインメント・プログラム(ソニー・ミュージックエンタテインメント主催)作品部門・人物部門最優秀賞受賞、1994年マルチメディアグランプリ'94(財団法人マルチメディアソフト振興協会主催)MMAアーティスト賞受賞 [excerpts from bottom of page 95] OSDのPSソフト第一弾「LSD」 インタビューにもあるとおり、ゲーム的な要素はなく、プレイヤーは夢を見ているかのようにいくつかに分かれたフィールドをさまようことに。行動しだいで次々と不思議な映像が展開していく。 [image caption] 日的もなくさまよい続ける自由さに、ユーザーは戸惑った⁉︎ OSDの最新作「プラネトキオ」 「東京なのに関西ノリ。気軽に笑える作品です(佐藤)」なんだかヘンな住人が満載の浮遊島で、なんだかヘンな話が展開するコミカルアドベンチャー。集めたアイテム&コトバを組み合わせた戦闘「コトバトル」といった仕掛けもアリ。 [image caption] ちょっと懐かしくて、ちょっと普通じゃない感覚が楽しめる作品だ。 (文/山田 純二)