CD-ROM作品『東脳』で話題を集めたコンピュアーティスト佐藤理。本誌の表紙デザインを手がけていることで既に読者の方々にはおなじみだろうが、そんな彼が10月21日にアルバム『トランスマイグレーション』を発表する。TB-303やTR-808を現行品のころに入手していたことからも分かるように、最近のトランスものに通じる非常にテクノ色の濃い作品となっている。これまであまり触れられることのなかった彼の音楽面にスポットを当てたインタビューを行ってみることにした。 絵を描くときと同じ手法で音楽を作っていく ・音楽はいつごろからやっていたのですか? 佐藤 大学生くらいからですね。80年代テクノと言われているクラフトワークやYMOに影響されて始めました。楽器が上手に弾けるわけではないんで、シーケンサーというものを知ったときにすごいショックを受けたんです。それから電子音楽やチープ編集による音楽などを知って、音自体に興味を持ち、自分でもやるようになったんです。 ・そのころはどんな機材を使っていたのですか? 佐藤 シーケンサーはROLANDのCSQ-100っていうMC-4をもっと簡単にしたようなCV/GATEのシーケンサーです。シンセサイザーはROLAND SHシリーズやYAMAHAのCSシリーズ。オープン・リールのテレコを2台使って多重録音をしたり、フリッパートロニクスみたいなものをやったりしてました。ポップス的なテクノをやってたんじゃなくて、今はやっているようなピュア・テクノみたいな感じのやつをやってました。 ・あくまでも趣味としてやっていたのですか? 佐藤 ええ、でもアルバイトで京都のNHKで音響効果みたいなこともやったりしてました。BGMを付けたり、テーマ音楽っぽいものを作ったりですね。それでかせいだお金でTR-808やTB-303だとかを買いました。今そういうのがとてもはやってますけど、最近買ったんじゃないっていうのがちょっと自慢です(笑)。 ・80年代の京都には独特のシーンがあったそうですが。 佐藤 そうですね。僕もスケーティング・ペアーズっていうインディ・レーベルに参加して、音楽と同時にシルク・スクリーンの作品を作ったりしていました。そういうときの友達がこのアルバムでいろいろと手伝ってくれた成田(忍)ですね。 ・その後デザイナーとしての道を歩むことになるわけですよね? 佐藤 僕は譜面がきっちり読めて音楽ができるわけじゃないから、他人の曲をアレンジして譜面を書いたりはできない。デザインだったらプロとしてこういうことをいくらでもできる自信はあったけど、音楽としてはスタジオ・ミュージシャン的なことができるわけじゃないから、それをやるつもりはなかったんです。 ・デザイナーになってからは、音楽は全くやらなくなったのですか? 佐藤 趣味っていう言い方は変なんだけど、自分の1つの表現手段としてやってた。自分で作ったシルク・スクリーンの作品に自分で作った音楽が一緒に流れているっていうのが、僕の中で自然だったんです。いわゆるマルチメディア的な感じをそのころからやっていたわけですね。 ・そしてCD-ROM作品の『東脳』で本格的にやることになった? 佐藤 いろんな人がCD-ROMを出しはじめていたんですけど、僕としてはどれも音楽が面白くなかった。ミュージシャンが出しているやつにしても、音の数が少ない・・・・・・ちょこっとテーマ曲が入っている程度。そこで音をいっぱいにしてやろうと、全部のシーンに全部違う音楽を入れることにしたんです。それで100以上の音楽を作らなければならなくなったんですが、100曲も他人に頼んでいるわけにはいかないので、自分でやることにしたんです。そこでもう一度システムをきちんとしようと思って、まあMacintoshはデザイン用として持ってましたから、シーケンス・ソフトにEZVisionを買ってきて、あとROLAND SC-55とかE-MU Proteus/3とかの機材を増やしていきました。 ・デザイン用に使っていたMacintoshで音楽を作るというのはどうでしたか? 佐藤 いや、感覚的にはそんなに変わらないですね。例えば僕の必殺の打ち込み方法に、シーケンサーを走らせてめちゃくちゃに弾きまくり、それにクオンタイズをかけて、カッコいい断片を幾つか拾っていって曲にするっていうのがあるんです。これなんかは僕が絵を描くときと同じ手法ですね。マウスを適当に動かして作った汚いものを何度かずつ回していってきれいなものを作るという手法。1個のときはぐちゃぐちゃな汚い線でも、回すことできれいになる。それって結構テクノな考え方ですよね。 Solo LogicとADATを導入しミックスまでも自分で手がけた ・今回のアルバムのレコーディングはどのように行ったのですか? 佐藤 ほとんどは成田と一緒にやってます。サンレコ読んでたから自宅録音はできましたが、スタジオで録るとなると簡単にはいかないので、だれか一緒に・・・・・・ということで成田に頼んだんです。「東脳」のリミックスも入れたんですが、これに関しては再生YMOなどを手がけているプログラマーの水出(浩)君に手伝ってもらいました。彼はゲームをやる人間なんで『東脳』を知ってくれてました。リミックスのときにはEMSのSynthi AKSを持ってきて即興演奏もしてくれましたよ。 ・エンジニアはどなたに? 佐藤 電気GROOVEやスチャダラパーをやってる松本(靖雄)君です。彼は若いのに古い機材が好きだし、録るときから音を作ってるから、こういう音楽には向いていますね。彼自身ミュージシャンなんで、ミックス・ダウンのときにミュートしながら曲の構成も作っていくっていう感じです。得体の知れないテープ素材をもとに面白い音も作ってくれましたし。 ・11月には『ジ・エソテリック・レティナ』というビデオCDを出すそうですが、それは一体どのようなものなのですか? 佐藤 ビデオCDは映像も出るCDなんですが、今度のVer.2ではちょっとしたインタラクティブができるようになっているんです。だからそれを利用してきちんとした順番で見ないと全部の絵が見れないとか、ある順番で聴くと別ミックスの曲が聴けるとかいう仕掛けになってます。 ・ビデオCDの音楽制作もスタジオで行ったのですか? 佐藤 いや、僕の事務所にSOUNDTRACSのSolo LogicとADATを2台導入してスタジオを作ったんです。曲作りやプリプロのときから・・・・・・というよりスタジオの設計のときから水出君に全部やってもらってます。SONY DPS-M7、DPS-D7、HR-MP5、DBXのサブハーモニック・シーケンサー120XPなどのエフェクターも買い足しまして、ベーシックはそこで録って、それを外のスタジオに持っていきトランスファーして作りました。 ・そこはあくまで録りだけ? 佐藤 ミックスまでやったのもあります・・・・・・しかも自分で(笑)。松本君のとは系統は違うけど、昔のテクノ的な、80年代テクノの感じがするものになってます。 ・CD-ROMやマルチメディアというと90年代的な感じがしますが、お話をうかがってますと80年代に対する思い入れが強いようですが。 佐藤 80年代テクノっていうのは僕にとって大きかった。あのころのデジタルものじゃない音色はいいと思うんです。だから自分で作るときも、例えばドラム・キットはなるべくシンセで作ったりしています。 ・最後に今後の予定を教えてください。 佐藤 次はボーカルものを入れたいと思ってるんです。今回のも変な声がたくさん入っているんだけど、もっともっと入れたい。今東京っていろんな外国の人がいるから、フィールドワークしていい声の人を見つけて、その声を入れたいですね。