Hard 2 Art 不定形の交感美学 Featuring Creator Osamu Sato オサム・サトウ。OSD(アウトサイド・ディレクターズ・カンパニー)の代表であり、DEP'93のプロコース作品&人物部門優秀賞、マルチ・メディア・グランプリ'94 MMAアーティスト賞を受賞している堂々たる実力派アーティストの登場だ。すでに過去にゲームソフト『東脳』、VIDEO CD『秘密の網膜』(SRIW 104)、ファーストCD『トランスマイグレーション』(SRCL 3013-4)をリリースしていて、新たにこの10月、CD-ROM『中天』(Macintosh対応 SRRG-10、Windows対応 SRRG-11)、CD『EQUAL』がリリースされる。もともとデザイナーとして優れた彼なので、そのニュー・アルバムの方はテクノというよりも、デザイニング・ミュージックとして大いに楽しめる内容となっている。 てなわけでシリーズ第3回目の始まりです……。 ⸺昨今インターネットやニフティ・サーヴなどが発達しているようですが、音楽の共同作業においてはまだまだMIDI情報やサンプル・データくらいだと思うのですが、今回の坂本龍一との作業はどうでしたか? 「彼が“好きに使っていいよ”ということで送ってきたMIDIデータをもとに、僕が色々と他の要素をたしたりして作っていきました。現在のクラブ・シーンのリミックス作業と同じネットワーキングですね。ただ一つ違う点があるとするなら、一旦データ化してハード・ディスクに入れてしまうとそれが有名な人のでも無名な人のでも、コンピュータ側からすれば同じ2進法のデー夕になることかな。それで僕もそういう気持ちで色々なものを取捨選択して組み立て上げていく。それとかあと民族の違いとか国籍の違いとか、色々な国の色々なことができる人から、その他にも色々なところからサンプリングしてますけど、そういったものをごちゃまぜにして、自身が独創的に作っていくっていうのが僕にとってはすごくおもしろい」 ⸺例えば坂本龍一の『B-2 UNIT』というアルバムはケン・イシイやヨシヒロ・サワサキ、あと電気グルーヴの連中なんかにもいまだに聴き続けられているんですが、どういった部分がいいと思いましたか? 「僕もそうです。いちばん衝撃を受けたかも知れない。現代音楽だと垂れ流しっぽい感じがあるんだけど、あれに関しては、そういうところをポップ・ミュージックとしても聴けるので、びっくりしましたね」 ⸺で、マスタリングはそのカッティングをしたケヴィン・メットコーフですね……。 「僕の今回の『EQUAL』は10曲でミキサーが6人なんですよ。そして録音している場所も全部違う。だからコンピレーションに近いアルバムなんですけど、最初からマスタリングはケヴィンにしようと思っていた。様々な音源をうまくまとめ上げる力を持っている点と、やはりあの低音の効いた独特のグルーヴ感が強力に出るんですよ。瞬間的にどんどんEQをうまくいじるんですよ。そばで見ているとマジックって感じがしました」 ⸺あとミキサーのゴウ・ホトダ氏や電気グルーヴでもおなじみの松本靖雑氏はどうでしたか? 「ゴウさんがアルバム『シンク』を創った時、僕がジャケットを手がけて、これから何かあったらぜひってことで今回参加してもらいました。今回のミックスもかなり気に入っています。松本くんはCD-ROM『東脳』のテーマのミックスをする時にやってもらって以来手伝ってもらってます。共通言語が多いですね」 ⸺今回レコーディングに参加しているアーティストについてそれぞれおうかがいしたいのですが……。 「フューチュア・サウンド・オヴ・ロンドンについては、彼らは絵も描いたりするし、ワープの連中とかと比べると僕に近いということもあってお願いしたんですが、素材を自らの新曲と言えるところまで加工してくれました。トニィ・モーリーに関しては新人でまだ無名なんですが、音を聴かせてもらった段階で気に入ってたんです。ワゴン・クライスト(ルーク・ヴァイバート)は今回の中で一番気に入っています。シモンズとやっている『WEIRS』を聴いてても、これからこの人はいくなあって思ったし……。今回のリミックスを聴いていてもすごく達者だなぁって感じ。異常な低音が出ててマスタリングの時は大変でしたけどね(笑)」 ⸺音楽をやり始めたのはいつ頃からですか? 「17才くらいの頃にシンセの中古を買って、やがて自動演奏をする快感を覚えました。またオープン・リールを2台使って、テープの連続がけをしてミキサーを通してフィードバックさせたり、あとラジオとかの音をミックスして、ライヴをやったりもしました。そんな変な音楽をやってたんですが、結構初期のアンビエントなんかとも近い形だったと思ってます」 ⸺作曲する時は視覚的なイメージから? 「いや、コンピュータに向かってからすべてを作り出すんですよ。消したり入れたり組み合わせたり作っていく過程に、自分の頭の中になんとなく生まれるイメージを即再生していいものだけをどんどんのっけてって一つの形にしていくんですよ。例えばテンポだけ決めてムッチャクチャに打ち込むわけですよ。で再生されて出てくるいいところだけをメモしていく。それをループにして組み合わせていくとかね。ゴウさんとやったものなんかは、別の曲のベースのシーケンスをパーカッションで再生してみたり……。そういうちょっとしたスケッチを作るようなことを『東脳』の時はかなりやりました。全部ループで再生されるんですけどそれぞれが完結しているようなものを作ろうとしたので、ネタに困ってくると色々なことを試すんです」 ⸺次に機材についてお聞きしたいんですが、マスター・キーボードはYAMAHA DX-7をお使いですね。 「別に何でもいいんです。キー・タッチとか関係ないし、打ち込めりゃ何でもいい。音源には使いません。アナログ・シンセはKORG MONO/POLY、SEQUENTIAL PROPHET-600で結構使います。あとTR-808、TR-909、サンプラーはMACに入っているソフト、SAMPLE CELLを使っています。あとそれをALESIS A-DAT 3台に録る。卓はSOUNDTRACS SOLOLOGIC 24トラック 8バスを使ってます。トラック・ダウンはA-DATをスタジオに持って行ってやります。そろそろシステムを変えます」 ⸺座右の銘機を一つ挙げるとすれば? 「特にないですけど、ソフトウェアでもよければ一番よく使っている“スタジオ・ヴィジョン”かなぁ」 ⸺今最も行きたいところは? 「……数日後にマレーシアに行きます。音と映像のサンプルを録ってCD用のプロモーション・ヴィデオを創ろうと思っています。あの国は多民族でしょ。そういうどうなっていくかわからない不定形のものに魅かれる。それをディジタルにおきかえるのが楽しいですね」 構成/編集部 PIC:Kumiko Nakata