Quit Logo Club 出席者 佐藤理(OSD) 飯塚昇(OSD) 矢吹真他(インプレス) Quitロゴマーク誕生秘話 「え?『Quit』?創刊号で『完了』しちゃうの?」「いや、そうじゃなくて…」部外者のみならず、当の編集部員でさえ当惑した本誌のタイトル。このタイトルの名付親が、本誌のアート・ディレクターでもあるOSDの佐藤理氏。そこで、ネーミングばかりでなくロゴを作り、さらにはCGアニメーションのプロデュースまで手掛けた佐藤氏と、実際にCGの作業をしたインプレス・ラボの矢吹真他氏と、佐藤氏と同じOSDの飯塚昇氏に「Quitロゴマーク誕生秘話」を語ってもらった。 佐藤 コンピューターがデザインの現場に入ったことにより、丸や三角や四角を描くための基礎技術が無くともある程度のものが作れるようになりました。その結果、何をどう面白く並べるかがデザイナーに求められることとなりました。そこで私は、丸とか四角とかいった単純な形で、何か面白いものはできないかと考えるようになりました。で、今回『Quit』のロゴを作る際にも同様に「単純な形で面白いもの」をと考えたわけです。ただ、「単純な形の組み合わせ」といった発想自体は別に新しいものではなく、古代から伝わるさまざまな文様は、単純な形の組み合わせによってできているのです。例えば、一般的に立体という物を考えたときに、まず眼に飛び込んでくるのが平面なんです。その組み合わせで立体を「感じる」のですが、私は、そのどちらでもなく、立体が球や立方体といった部品というか細胞に分かれて見えるんです。このような発想から『Quit』のロゴが生まれました。 〇では、実際のCGに話を移したいと思います。ロゴの動きは、あらかじめ周到に計算されていたものなのですか? 佐藤 基本的に決めていたのは、ロゴが「合体」してロボットみたいになるということと、ロゴが丸や四角といった形に分解するということだけでした。後は、この「決まり」と絵コンテとは名ばかりのスケッチを矢吹さんに渡して、自由に作ってもらいました。 飯塚 ウチ(OSD)ではいつもそうですよ。絵コンテなんか、例え落書き程度でもあったらまだましですよ。 〇作っている後ろでディレクションしたりはせずにですか? 佐藤 はい。確かにそういった方法もありますが、操作する人もいちいち指図されていたのでは、時間ばかりかかってしょうがないでしょう。機械やアプリケーションを上手に使える人が操作すべきだと思うし、その方が良い結果を産むと思う。僕は基本的に他力本願な所があるんですよ。物事を進める際にある部分に関しては、僕より優れたところを持った人がいたなら、その部分に関してはその人に頼んだ方が良いと思っています。 〇で、その「優れた人」ということで名前の出た矢吹さん、ある種責任を持たされたわけですが、実際に作るにあたって注意した点は? 矢吹 私は、3Dのアプリケーションを使ったことがなかったので、いろいろ試行錯誤しながら進めました。その結果、かっちりとした計算された動きよりも、ラフな感じで当たりをつけた方が生き生きとしたキャラクターが産まれました。 〇具体的に言うと? 矢吹 初めは、Illustratorでミリ単位の長さを計って作っていたのですが、先程言ったようにぎこちない動きになってしまったんです。要するに、きちんと計ったので動きはスムーズになったのですが、あまりにスムーズすぎてなんか気持ち悪くなっちゃったんです。で、「てきとうに」やったら上手くいったんです。試行錯誤したおかげで自信が付きました。 佐藤 いわば、こういう物はすべて試行錯誤なんです。もちろん、物事に対するセンスや趣味はありますが、普遍的にだれでもが「この動きはいい」といったものはあるわけです。つまり、そういった「取りこぼしがない」部分に関しては人に頼めるわけです。で、取りこぼしをしない上で、その人が「これは面白い」と思ったことをやってもらえればいいんです。ただ、今回の場合はほとんど制約がなかったので、思い切って任せられたというのはあります。このような作り方がクリエイター本人にとっては「very special」でなくても、外から見たら「very special」であるってことはいっぱいある。別に手を抜いたわけじゃないんですよ(笑)。  確かに、1人で何から何までやれば、そのクリエイターが望むモノが出来上がるのでしょうが、一体どのくらいの年月がかかるか分からない。そこで、人に頼む、つまりチームを作り上げることが必要になってきます。 〇そこで、今回もそうしたわけですね。 佐藤 そうです。1人でコツコツやっているよりは、いろんな人と実験的にやってみたりしてできればいいかな、と考えています。マシンとアプリケーションについて知っているというのが、前提にはなりますが。 飯塚 私がいつも頼まれるときは、「飯塚さん、こんなふうな感じに仕上げといてくださいよ。こんな感じで」って手ぶりで指示されるんで「あー、『にゅるにゅる』ですね」「そう、『にゅるにゅる』です」といったやりとりがあって、作品が完成するんです。 佐藤 このやり方は、飯塚がウチのスタッフだからできる話であって、やはり、長い間一緒に仕事をしていると、相手が何をどう表現したいかが手に取るように分かってくるんです。でも、まぁ初めはある程度詳しくやらないとね。 〇で、今回初めて任されて作業をした矢吹さん、感想をどうぞ。 矢吹 僕は、これまでもこういった形での仕事をしてきていたので、「任される」ということに関して戸惑うことはありませんでした。でも、今回は相手の佐藤さんがアーティストだったので、緊張しました。勝手にやっちゃうと、佐藤さんの作品じゃなくなっちゃうんじゃないかと気になりました。 〇その懸念はどのように解消したのですか? 矢吹 佐藤さんと話したら無くなりました(笑)。 佐藤 任せたからには、好きにやっていいというのが僕の方法だから。今後もこのチームで何か仕事をしたいですね。 〇佐藤さん、任せての感想は? 佐藤 いいんじゃないですか(笑)。モデリングやマッピングは問題無かったし、動きもよくできていました。特に、ロゴがキャラクターになったときの口の動きが良かったですね。あれはどうやっているの? 矢吹 あれは口の部分をひちゃげて、それを繰り返しています。さらに、ただひちゃげているのではなくて、ひちゃげると中心点も移動してしまいますので、その中心点も絵全体が移動しないように移動しました。 佐藤 あれはメタモルフォーゼを使っているのかな? 矢吹 実は今回使用した3Dソフトには、メタモルフォーゼ機能は付いていなかったんですよ。まぁ、今回に関して言えば、例えその機能が付いていたとしても、時間的問題で使えなかったんでしょうけど……。でも、感じは出せましたよね。 佐藤 それこそ技術力と言えますね。そういった技術と発想力がモノを作る際には重要になってきます。作った3DをQuick Timeに落としてPremire[sic]で編集しました。今回は、絵の基本的部分の他に、音も作りました。 矢吹 MIDIですか? 佐藤 シンセで作ってDATに落としました。Premire[sic]での編集で大変なのは、プレビューに時間がかかるということと、同期を取るのが大変だということです。特に今回のように映像自体にテンポがある場合は、音が少しでもズレると物凄く気持ち悪くなるので、1フレームごとでの同期に気を使いました。ミュージック・ビデオに代表される音を中心に置いたモノと、映画のように映像を中心に置いたモノとの差がここにあります。 〇ロゴ回しのバージョンはいくつあるのですか? 佐藤 いくつかのバージョンを作っています。1つはお手軽なビデオ・ドラッグ風なやつです。これは、Directorと256色のパレット・アニメーションで作りました。これはQuick Timeではないので、フル画面で見ることができます。Directorファイル内のプロジェクターをダブル・クリックしてください。あとはいくつか作っていますが、オススメはIllustratorを使ったアニメーションです。 〇Illustratorでアニメーションですか? 佐藤 そう。プレビュー機能を使ったやつなんだけど、これは他にもやっている人がいるけど、前からやってみたいと思っていたのでやってみました。 矢吹 推奨機種はMacII以下ですかね(笑)。 〇それはなぜですか? 矢吹 それ以上の「速い」機種だと画面切り換えが速すぎて、プレビューで何が起こっているかが見えないんですよ。(笑) 佐藤 ただ、Illustratorを持っていないと見ることはできないんです。この他にもいろいろアイディアがあります。例えばアニメーションといったら、秒間30フレームの動きが要求されると思いがちですが、例えば腕を上にあげた状態と下げた状態。この2つの絵を交互に出せば、立派なアニメーションが出来上がります。いい例がウゴウゴ・ルーガです。あのCGもこの手法で作られています。業界では「中割」なしのこういった動きを「ウゴってる」って言ってます(笑)。 飯塚 これこそ、「にゅるにゅるでお願いします」って感じだったんですよ。私も楽しんで作りました。もっと素材を加工すれば、さらにいろんなロゴ・マークができる可能性がありますよ。 佐藤 そこで、付録のCD-ROMには、PICT形式の図版データをいくつか入れておきますので、読者の皆様にいろんな形のアニメーションを作って応募してきてもらいたいんです。いろんな才能を持った人が、自分の最も得意とするところで作品を作って応募してきてほしいですね。Quick Timeにしてあれば実写でも構いません。アイディアはなんだっていいんです。アーティストの世界はアイディア一発勝負です。奇抜で面白いアイディアを持った人からこそ、本当の面白いプロが生まれてくるんだと思います。だめですよ、レンダリングの美しさばかり自慢しちゃ。それこそ、こういうやつこそQuitですよ! 矢吹 今回の作業についてひと言感想を言わせてもらえれば、「もっと余裕が欲しかった」ですね(笑)。ただ、基本的に私は技術者ですので、今回アーティストである佐藤さんと仕事ができて大変為になりました。なんか、佐藤さんのモノの見方の一端に触れられたような気がしました。 飯塚 そうですね。私にとっては「いつもの作業」でしたが、チームを組んでの作業の重要性を再認識しました。そういう意味でも楽しかったですね。 佐藤 これからは、物の見方といった概念を含んだ広義でのアイディアが重要になってきます。多くのアイディアが繋がり、面白いものを作っていく。『Quit』をそういった場にしたいですね。 作品応募先:〒160東京都新宿区新宿6-12-5(新宿松喜ビル) リットーミュージック Quit編集部QLC係 [p. 104 bottom text] 「104Quitロゴマーク誕生秘話」フォルダーの中には、「Quitロゴ」と「Quitロゴ・アニメーション」の2つのフォルダーがあります。「Quitロゴ」の中の「PICT」「Aldus Freehand」「Adobe Illustrator」「Swivel 3D」「DXF」の各フォルダーには、フォルダー名のソフトで作成されたロゴのデータが入っています。「PICT」以外を開くには各ソフトが必要です。なお、「Swivel 3D」は、付録CD-ROMにデモ版が収録されているので開くことができます。「アニメーション」フォルダーについては105ページ上部にある説明をこ覧ください。 [p. 105 info boxes] QuickTimeMovieフォルダー Quitのロゴを3Dグラフィック・ソフトでレンダリングした後、Premiereで「画面切り替え」や「変形」などの機能を使って編集加工した。Premiereには、MacのシステムにQuickTimeがインストールされていれば、「LOGO.movie」をダブル・クリックすれば再生できる。QuickTimeは付録CD-ROMのTool&Utilityフォルダーに入っている。 MacromediaDirectorフォルダー Quitのロゴをペイント・ソフトで着色し、Directorにキャストとして登録すれば、各種の動きが設定できる。ここには、これらのプログラムを持たないユーザーでもダブル・クリックすればアニメーションを再生できる「Quit.movie」と、アニメのパーツが収められている「Director File」、そしてアクセラレイター・アプリケーションを使って開いたり修正 ができる「Quit.mma」がある。「Quit.movie」以外を開くにはDirectorが必要。 AdobeIllustratorフォルダー Illustratorはアニメーション・プログラムではないが、線画 のアート・ワーク画面からプレビュー画面に切 り替える際に、作画順にカラー表示するという特徴がある。Illustratorで 「QUIT ILL-MOVIE」を開き、メニューからプレビューを選べはアニメーションは再生を開始する。このファイルは日本語バージョン3.2で作成しているので、それ以前のバージョンでは再生できない場合もある。再生にはIllustratorが必要。