~~ PAGE ONE ~~ Quit創刊特別インタビュー コンピュ・アーティスト 佐藤理 コンピュメディア さまざまな分野の映像やグラフィック、そして数回におよぶ個展などをとおして作品を生み出してきた「佐藤理」。彼の名を知らない読者も、この記事を読んでいる今はその作品を見ているはずだ。なぜなら、いま手にしている本誌「Quit」のロゴも彼のデザインによるもの。佐藤氏はひとりのアーティストとしての活動ばかりでなく、現在はマルチプル・デザイン集団「OSD(アウト・サイド・ディレクターズカンパニー)」を率いて、さらにその活動の場を広げている。独身の発想法**?**(can't see one character)まとめたデジタル・デザイン教本「コンピュデザイン」の製**?**そして、撮影から編集、さらには音楽と、すべての行程をコンピューターで制作したビデオ集「コンピュムービー」の発表と、OSDはデジタル・メディアの発信地になりつつある。コンピューター・アーティストの先駆者であり、「Quit」創刊にも深くかかわっている佐藤理氏が語る、デジタル・デザインと近未来メディアの可能性。 OSAMU SATO INTERVEIW OSAMU SATO INTERVEIW OSAMU SATO INTERVEIW OSAMU SATO INTERVEIW OSAMU SATO INTERVEIW ~~ PAGE TWO ~~ **Left column** ●デザインとは気持ち良く並べること ―まず、佐藤さんとコンピューターの出会いはいつごろだったのですか? 佐藤 前にいた会社から独立した当時、エディトリアルの仕事が多かったんですけど、特にアルファベットのロゴを作ることが多くてね。ちょうどそんなとき、確か5,6年前ですが、Macと出会いました。機種はMac IIで、それが最初の1台でした。今思うと恐ろしく遅くて、恐ろしく高かったけど、でも今の僕のMac IIは速いです。今では、スタッフの数よりMacの方が多いですよ。 ―当時、ソフトは何を使っていたのですか 佐藤 初めはStudio8とかLetraStudioを使っていたんだけれども、だんだんIllustratorを使うことが多くなりました。僕の手法に合っていたんです。もちろん今は、Photoshopやその他のソフトも使いますよ。特に映像作品には、いろいろなソフトを組み合わせて使っています。 ―デジタル・デザインって何ですか? 佐藤 これは音楽でも、グラフィックでもビデオでもそうだけど、デジタルにするということは、対象物を細胞レベルにまで分解するということなんです。デジタル信号は0と1の世界でしょ。でもこれはコンピューターには理解できても僕には理解できない。音楽の場合ならサンプリングしたキーボードの鍵盤をたたいたりした「1つの音色」、グラフィックなら円とか円角、あるいは線、もっと言えば「1つの点」これが最小単位、つまり細胞です。これを、どういうリズムで配列していくかがデザインということです。音なら、シーケンス・ソフト上で音階ごとに並べて、1つの小節なりフレーズを作りますよね。そして、その小節を繰り返したり、違うフレーズを持ってきたりして1つの音楽が出来上がる。グラフィックも同じで、円や四角といった図形を、縦横あるいは前後に並べて1つの具体化した物体ができる。そして、それをまた画面に配置していってデザインとして完成させていきます。細胞レベルにあたる音や図形というのは、だれが作っても同じもの。その並べ方に個性が表れる。そこがデザインになる。というのを図解で解説した本が「コンピュデザイン」なんです。 ―では、その並べ方の設計図、つまりラフ・スケッチはあらかじめコンピューターで作るのですか? 佐藤 何もしませんよ、ぼくの場合は。 **Right column** ―何もですか? 佐藤 そう、何も。ラフ・スケッチどころかビデオの絵コンテだって無いんです。いつも、素材を用意していきなり並べていく。そこで大切なのは「気持ち良く」並べること。だから絵の具で作品を作ると、気持ち良いから、止まらなくなってグチャグチャになったりして。それがコンピューターだと、やりすぎたら後からいくらでも消せるでしょ。  デザイナーの中には、コンピューターはただの「道具」だって言う人がいるけれども、僕は違うのね。僕にとってのコンピューターあ思考回路の一部です。コンピューターと対話しながら「気持ち良く」並べていく。だからといって僕は、アイコンを自分でカスタマイズしたり、コンピューターに名前を付けたりする人ではないですけどね。  人間が考えることは結構限られているから、何も考えずに始めて、そこで起こったことをデザインしていく。仕事の場合いろいろと制約もありますけど、もし、作品を作るのに制約が無い人なら、この方がいいんじゃないかと思います。とにかく始めることが大切です。 ●コンピューター・ムービー ―Macで制作したビデオ集「コンピュムービー」についてお聞きしたいのですが・・・・・・。 佐藤 映像は以前から何本か作ってきました。それは特にMacで、とういうことではなく、例えば、「ブタホタテドリ」のCFのときはAmigaを使ったし、ビデオ・クリップでは16mmのフィルムで撮ったりしました。個展のときに作った「I Love You」という作品も素材はMacを使ったけれども、どれも最終的には編集スタジオで、編集してきた。それを今回はすべてMacだけで作りました。 ―どんなビデオなんでしょうか? 佐藤 このパッケージの中には6曲分のビデオ作品が入っていて、これはすべて違うアイデアと違う方法で制作してます。例えば、ビデオ・ドラッグ風のとか、普通のカメラで撮った写真をPhoto CDにして、その写真をモーフィングしながら並べたりとか、Illustratorで以前作ったキャラクターのデータを動かしたりとか。いろいろな方法を試してみた、実験的な作品でもあります。 ―音楽はどのようにして作りましたか? 佐藤 全6曲のうちの2曲は、マドンナや再生YMOのミックスを手がけているGOH HOTODAさんのプロジェクト「THE SYNC」の曲を使ってます。 ~~ PAGE 3 ~~ **LEFT COLUMN** その「THE SYNC」のCDのジャケットのデザインの仕事でニューヨークに行ったときに、持っていったS-VHSのビデオで街の風景などを撮影して、それをもとにミュージック・ビデオも作りました。その他の曲は、僕と友人の成田忍というミュージシャンが作曲してます。僕はMacで、彼はPCマシンだからMIDIファイルをやり取りしながらアレンジしたりして作ったんです。 ―ムービーの編集方法は? 佐藤 いろいろな方法があって一言で説明できないけれども、簡単に言うとラスターオプスのMoviePakというハード―ウェアを使って、素材ビデオからいいところだけを10~20秒くらいの単位でハード・ディスクに取り組んでみました。それをアドビPremiereで2重3重にエフェクトをかけ、合成しました。単純に並べて編集するだけなら、すぐに終わりますけど、最終的に1本のムービーにするにはすごく時間がかかる。だから夜中にMacに作業させておいて、次の日の朝に再生してみるといった感じで。 ―苦労された点は? 佐藤 特にここという部分は無いんだけど、音と映像を合わせるときには工夫が必要になるかもしれない。だだ、僕の場合は曲も自分で作っているから、その曲の構造が頭の中に入っているでしょ。つまり、1小節の長さとか、何小節目で曲調が変わるとかが頭の中に入っているわけです。だから編集のときに何フレーム目でこのエフェクトをかけるっていうのが分かるんです。その点はいいですね。 ●CD-ROM、そして・・・ ―現在、最も力を入れていることは? 佐藤 今は、CD-ROMゲームを製作してます。多分春には完成すると思います。 ―どんな内容になるんですか? 佐藤 形式的にはアドベンチャー・ゲーム。だけど、今までのゲームとは全然違ったものになると思います。タイトルは「東脳(とんのう)」。東洋人の脳っていう意味。東洋的な空間の中をさまよいながら冒険していくストーリー。僕としては、すごくエンターテインメントを意識しました。とにかくみんなに楽しんでもらえるものにしたいというのがあって。そこには、僕がデザインしたキャラクターが次々に登場するんだけれども、そのキャラクターも背景もすべて3Dグラフィックスで作っているんです。だから、膨大な量のグラフィックスを使ってます。そのレンダリングの時間といったら計り知れないんです。 **CENTER COLUMN** ―また、なぜゲームを? 佐藤 以前、アルファベットのロゴを作る仕事が多かったころに、「ALFABETICAL ANIMALS」というキャラクターを作った。それはアルファベットをモチーフにした動物たちで、その時、画集として1冊の本にしました。そして、そのキャラクターたちを「コンピュムービー」の中で音楽に合わせて動かした。そうしたら、生きてるっていう感じが出てきて、キャラクターに性格を付けてみたくなったんです。それで、そのキャラクターたちが棲んでる世界を作りたいと思って、このゲームを作ることになったというわけです。 ―今後の活動の予定は? 佐藤 例えば今、コンピューターのネットワークには、フリーウェアとかシェアウェアといった個人で作った便利なソフトウェアが載っていてい、だれもが自由に利用できる。これは、コンピューターの世界が今はソフトウェアの時代だからだと思うのね。それがこれからはQuickTimeムービーとか、音楽だったり、ソフトウェアで作られた作品の時代に移っていくと思います。今でもQuickTimeムービーとかが、ネットワークで配られているけれども、せいぜい10秒くらいの長さでしょ。でも、何年後かには2時間の映像が丸ごと入ってしまうようなQuickTimeムービーのファイルがフリーで配られてしまうという時代が来ますよ。多分映画館っていうものは残ると思うし、大金をかけたハリウッド映画も残ると思います。でも、新しいエンターテインメントとして、デスクトップで制作されたデジタルの映画が登場すると思います。それは映画とは言わないかもしれませんけど。 ―そこにOSDの活動のばがあると 佐藤 そう、近未来の話かもしれないけど。OSDは、そういうデジタル・メディアにすごく近いところにいると思うし、既に今までの活動でノウハウを持っている。今後テクノロジーはどんどん進化していくから、僕1人で全部はとても無理だと思うのね。もちろん僕も勉強しますけど。僕が009計画って呼んでるものがあって、僕が009で、これからさらにそれぞれの才能をもった007や008たちを集めて、OSDの活動を広げていこうと考えてます。