VIDEO PRODUCT DESIGN 「コンピュムービー/佐藤 理」 アウトサイド ディレクターズ カンパニー(OSD) 佐藤 理/飯塚 昇/高間安見子 協力:(株)HSS 音楽、タイポグラフィ、写真、モーション……。あらゆるイメージを同じ時間軸にレイアウトし、見る者に痛烈なイメージをあたえる⸺マルチプルデザイン集団[OSD]を率いる佐藤氏のビデオ作品とそこに潜むアイデアの数々。 INSPIRATION   そもそものきっかけは、ニューヨーク在住のミキサーGOH HOTODA氏との出会いから始まった。彼はマドンナや再生YMOのミックスを手がけるなど、現在もっとも活躍しているミキサーの一人である。その彼自身による音楽ユニット「THE SYNC」のCDジャケットのデザインを依頼されたのだ。CDアルバム『BEAT THE SYSTEM』は、サックスなどの生楽器とデジタルサンプリング音が巧みにミキシングされた作品であった。  音楽の世界ではデジタル化により、非常に少ない人数で第一級のクオリティをもった作品を生み出すことがすでに可能になっている。GOH氏の作品も彼自身がすべてを制作することにより、彼のもつ優れたセンスがありのままに活かされている。そして、私もGOH氏の創作スタイルに共感を覚えた。なぜならそのスタイルはグラフィックデザインの世界でも同じであり、デジタル化により自分の意思をより生の状態で作品に反映できる時代が来ているのだと思っていたからだ。  さっそく『BEAT THE SYSTEM』のCDジャケット制作のためにニューヨークに行くことになった。そこでたまたま民生用のビデオカメラを持っていたので、いっそビデオクリップも制作しよういうことになった。ビデオもその音楽と同じ精神で、一人のアーティストがプロダクションレベルの作品を制作してしまおうというのが私たちの考えであった。  もちろん、Macintoshである程度のビデオ制作が可能だという感触はもっていた。最近個展用に制作した『I LOVE YOU』というビデオは、部品こそMacintoshによるグラフィックスであったが、最終的な編集段階ではやはり編集スタジオを使った。これを、今回はQuickTimeとAdobe Premiereを用いてすべてMacintoshで処理することになるのである。  また、THE SYNCのビデオクリップ以外にも数点のビデオ作品を制作し、これらを『コンピュムービー』と題したビデオ作品集にした。 ASTOR MAGIC   まず、THE SYNCのビデオクリップの素材は先にも述べたようにCDジャケットの撮影と合わせてニューヨークで撮影した。撮影といってもカメラは民生用のブレンビープロ(SVHS-C)である。これを使って撮った素材は、THE SYNCのサックス奏者がサックスを吹く姿、観光がてらに乗ったヘリコプターからのニューヨーク景観、そのほか地下鉄や交差点でのカットなどである。カット数にすると数える程度のものだ。  編集に入るには、撮影済みのビデオテープをハードディスクにキャプチャしなくてはならない。キャプチャに使うハードウエアはRasterOpsのMoviePakで、容量にして200MBくらいの素材を用意した。この素材をAdobe Premiereのみを使用して編集を行う。編集するにあたって、とくに特殊なテクニックを用いたわけではない。基本的には、素材のクリップの中からとく好きなイメージをスーパーインポーズトラックを使って重ね合わせている。  このビデオの曲『ASTOR MAGIC』は非常にゆったりと宙に浮くような曲なので、ビデオのイメージもそれに合わせた。PremiereのフィルタであるBendとMotion機能、さらにTransitionsのCross Zoomを使ってそれぞれのカットに浮遊感を与えている。音楽では1つのフレーズを反復させて作曲していくのはあたりまえのことであるが、このビデオも同じカットを何度か使い、反復によるリズム感を出そうと思った。 GOLDEN FLOWER  私の場合、絵コンテというものはいっさい作っていない。そこにつく音楽が絵コンテなのである。今回制作したビデオの中には、古くからの友人であるミュージシャンの成田 忍氏とともに私自身が作曲した作品がある。私はMacintoshとEZ Visionというシーケンスソフト、成田氏はIBMコンパチマシンを使っての共同作業だ。サンプリングした音をソフトの上で音階を変えて並べる。そうして、1つのフレーズができあがる。フレーズは、1小節あるいは2小節の単位となり、これを反復したり、並べ替えたりして1つの曲としてデザインしていく。このあたりは、私のグラフィックにも共通するデザイン概念で、音楽なら1つの音、グラフィックなら円や四角形など、1つの細胞のような単位を並べ、大きなイメージに作り上げていく。デジタル上では、いかにセンス良くこの細胞を配列していくかがデザインという作業のようにも思える。  こうして作った音楽に沿ってビデオを制作するのだが、このとき自分自身で作曲をしていると、小節単位で音楽の構成が頭に入っているので、ビデオの編集が非常に行いやすい。音楽の1小節をビデオのフレームに置き換えていくのである。たとえば、1小節がビデオのフレーム数にして100フレームだとすると、この100フレーム単位で画面切り替えなどを挿入していく。こうすると音楽と同期したリズム感のあるビデオになる。  すべての作品はこの方法で制作している。なかでも『GOLDEN FLOWER』という作品では、このタイミングでAdobe PremiereのMotion機能を使ってズーミングを行っている。音楽に合わせて絵が近づいたり離れたりすることにより、ビデオドラッグのような効果を出している。ビジュアル的には、カイパワーツールで何画面分にもなる大きなフラクタル画を作り、FilmLoopファイルのフレームにペーストした。こうすると何フレームにもおよぶフラクタルをいっぺんに作ることができる。 ALPHABETICAL ANIMALS  私のグラフィック作品の中のアルファベットをモチーフにしたキャラクター群「ALPHABETICAL ANIMALS」は、アルファベットのそれぞれの文字を、個性をもった動物にデザインしたものである。元来、キャラクターという単語は文字と性格という意味をもっている言葉なのである。いままでこのキャラクターは1枚の絵としてのみ存在していたが、文字の形をした動物なので、自然にこれを動かすことを思いついた。  このキャラクターたちはAdobe Illustratorで作成されていたので、PhotoshopでPICTファイルに変換し、MacroMind Directorで動きをつけた。バックには、パレットアニメーションを使っている。パレットアニメーションは、パレットの色を回転させることでアニメーションを作る技法である。  この作品はDirectorで作成しているため容量は非常に小さい。このアニメーションをDirectorで1文字ごとに作り、そのファイルを安価なスキャンコンバータでビデオに録画している。そのため最終的な編集はビデオ機器上で行っていることになる。編集といっても録画ボタンを入れたり切ったりしているだけのことだ。音楽はできたビデオにアフレコしている。 コンピュムービー  いまは、せいぜい1曲分3分間程度の作品を制作するのが妥当なところだと思う。しかし、いずれは数時間におよぶデジタル映画だって可能になるはずで、いまの作品制作はそのときのための練習だと思っている。  今回紹介したもののほかにも3つの作品を制作。これらの全6作品は『コンピュムービー』と題したビデオパッケージにしてリリースする。音楽と画像をリアルタイムで再生できるメディアとしてはビデオテープがいまは最適だろう。しかし、デジタルデータとして保存しているのだから、時が来ればどのようなメディアにも対応できる。OSDではそのCD-ROM作品も現在制作に乗り出している。大量のグラフィックを使ったゲームのようなエンターテインメント作品になる予定である。  今後CD-ROMなどがメディアとして成熱し、さらに新しいメディアが誕生してくるだろう。もちろん紙を使った出版がなくなるわけではない。どんどん新しいアクセス方法が増えていくのだ。ネットワークが大容量になり普及すると、現在の流通という壁を超えてどんな所でも、どんなときでも見たいものに出会えるのである。デジタルでデザインすることは従来のものの置き換えではなく、まったく新しい形をつくるために行うのである。それを考えていないとデジタルデザインの意味がないのではないだろうか。  デジタル化によりアーティストは、メディアに左右されない作品をつくることが可能になっている。新しいメディアの誕生など、世の中の動きはわれわれグラフィックデザイナーの周辺から起こるのだと思う。 FACE 「THE SYNC」のCDジャケットの件でニューヨークに行ったとき、普通の35mmカメラも持参した。とにかく素材をなるべく多く持っていることが、大量のグラフィックを必要とするビデオでは大切である。  このカメラでニューヨークの街角で見かけた「顔」のようなものを撮影した。たとえば、家の窓がついた壁や、ドアのとってなど「顔」に見えるものはなんでも撮影してきた。これならば、1カットだけでも見ているとおもしろいので、連続して見せることのできるビデオにすれば、さらにおもしろいだろうという発想である。とりあえず撮影したフィルムをPhoto CDにした。そして、Photo CDに入っている写真をMorphを使ってモーフィングでつなげていく。素材さえおもしろければ、ただ単に静止画を並べているだけでも、効果的なビデオを制作することができる。 94年1月発売予定の作品集『コンピュムービー』を3名の方にプレゼントします。詳しくはP97のスペシャル・モニタ・プレセントのコーナーをご覧ください。また、MdNではこのビデオ作品を発売に先立ち先行販売いたします。購入希望の方は、本誌綴じ込みの振り込み用紙に商品名『コンピュムービー』とお書きのうえ、4,800円をお振り込みください。送料は当社負担にてお届けいたします。