「未知」の魅力に満ちたアドベンチャー「中天」を聞く デジタルクリエイター 佐藤理インタビュー 奇怪と表現せざるをえない。そんな、今までに見たことのないエキゾチックなキャラクタが登場するCD-ROMソフト「東脳」。アドベンチャーゲームのスタイルを取りながらも、その世界設定と登場するキャラクタ、物語は、明らかに従来の「ゲーム」という枠とは一線を画していた。そして、新たな作品「中天」3部作の2作目というこの作品は、前作の雰囲気を持ちながらも、新たなキャラクタ、風景、世界を創造した。 この作品群の生みの親である、佐藤理(さとうおさむ)氏。異能の創造者である氏は、何を考え、何を想像しながら、この作品をつくり出していったのか。氏のオフィスにて、それらについて聞いてみた。 取材協力 ソニー・ミュージックエンタテインメント 東洋風と言われることが多いんですが意識してつくったわけではない MacUser/Japan 「東脳」「中天」といった3部作をつくろうとした動機はどのようなものでしょう? 佐藤氏 あんまり動機という動機はないですね。「東脳」「中天」といった作品だけではなくて、なんでも普通の音楽やCGと同じょうにつくっていきますよ。どのような方法でいつまでにつくる、といったことはありますが。一番初めにCD-ROMをつくったときにも、CD-ROMっていうものがあるのかって知って、これならばつくれそうだなって思って、つくり始めたわけです。 MacUser/Japan 作品がオリエンタルな雰囲気を持っていると思うのですが、アメリカに留学されたことと関係あるのですか? 佐藤氏 直接的な関係はないですけれどね。でも、どうしてオリエンタルと思われました? MacUser/Japan 「饅頭」の歌(中天に挿入された音楽)を聞いたときに、編集部の者がみんな振り返ったんです。それでとても東洋的だって、言っていました。登場するキャラクタも、それっぽいですし。 佐藤氏 でもだからといって、登場する僕のキャラクタが東洋的と誰かが決められるわけではないですよね(笑)。特に何かモチーフがあって、つくっているわけではないんですよ。 MacUser/Japan でも影響を受けたもの、たとえば星の宮(中天の登場キャラクタ)は、どうでしょうか? 佐藤氏 そうですね。確か中国だったと思うんですけれど、昔の宇宙の考えに二十八星宿(せいしゅく)っていうのがあるんですよ。星の神様みたいなものなんです。これがヒントといえば、ヒントになるかもしれませんが。 MacUser/Japan ほかに「東脳」「中天」を見ていると、輪廻転生といったようなテーマがあると思えます。これも東洋的な影響を感じるのですけれど、やはり影響はないのですか? 佐藤氏 メロディとか音楽とか……気持ちいいもの、しっくりくるもの、っていうものに、アジアの面影とかがあったりするのも、自分の遺伝子の中にアジア的な部分があるためだとと思う。それから、ゲームといっていいのか、あの作品(東脳、中天)は人生みたいなものだと思うんですよ。たとえば人生は何をテーマにして生きるといったことはないでしょう?どうしようといったような絶対的な目標があるかもしれないけれど。だけど、目標がないからって死ぬわけではない。だから、そのときそのとき還っているだろうし、(東脳は)そういうゲームなんですよ。 MacUser/Japan ゲームデザインを行ううえで,特に心がけた点はありますか? 佐藤氏 僕はゲーム作りのプロでもないし、ゲームを自分ではしないし、こうなったらああなるといった(筋道をきちんと立てるような)ゲームデサインはしない。ただ、「人生」そのものは参考にしていますね。たとえば自分の人生だと、こうゆうことをしたいと思ったら、いろんな過程を経るとかの駆け引きをしなければならない。ゲームは、そのような駆け引きを行うことなんですよ。分かれ道があれば、選ばなければいけないといったような。それから、ズルをしたらズルをしたなりのリスクがあるよ、とか。そのような人生の要素をふまえたうえで、ゲームをつくっていきます。 MacUser/Japan どのような人ならば「東脳」「中天」を面白く感じると思いますか? 佐藤氏 見たことのないようなものを見ることを楽しみとする人,にとって面白いんじゃないかと思う。続きになるけれど、何故僕がゲームのプロじゃないかというと、ゲームのプロならばもっと媚びてなきゃダメだと思う、ゲームとしてね。もっと(プレイヤーを)楽しませようと考えると、たとえば見たことない世界で、見たいことのない生物が出てくるようなゲームは入りづらいわけで、できれば自分の世界に近いほうが感情移入しやすいですよね。そういった意味で、僕の作品は少しとっつきにくいかもしれませんね。 MacUser/Japan 最後になりますが、Macintosh、Windows以外のプラットフォームへ進出するご予定はありますか? たとえば、ソニーさんはPlayStationを持っています。「東脳」のPlayStation版なんかはどうですか? 佐藤氏 「東脳」のPlayStation版は考えていません。ただ、まったくの新規の作品をつくりあげてみたいと思っています。まだ、タイトルとか詳しくは決まっていませんが、近く発表できるでしょう。 京都生まれという佐藤氏は、自らの東洋的な部分での創造性を強く前面に押し出すことはほとんどない。しかし、一歩佐藤氏の世界に入り込むと、懐かしく、それでいて未体験の想いに引きずり込まれるようた。それは、氏が述べたとおりに、生まれ育った環境、そして後天的に身につけた深い洞察力によるところが大きいのではないか、と感じた。 失礼な言い方かもしれないが、インタビュー前には、Macintoshを使った「ゲーム作者」といったイメージを浮かべていた。しかし、映像でもわかるとおりに、素顔の佐藤氏は「クリエイター」である。何かをつくろうという意志が先にあったのであり、ゲームという手法は、音楽やデザインといったほかの手段と同列に位置する1つの手法にしか過ぎないようだ。 ゲームをほとんど知らないと断言する作り手の作品がどのようなものになるかは、「東脳」「中天」によって示されている。あとは3部作となる、最終作「海市」で、氏はどのようなものを作り上げるのか。期待して待ちたい。 聞き手 奥村英明、東和佳、MacUser/Japan ©︎1995 Sony Music Entertainment (Japan) Inc. 佐藤理(さとうおさむ) 1960年京都生まれ。祖父、父ともに写真家という、芸術家の家系に生まれる。1979年から1年間アメリカに滞在。嵯峨美術短期大学、京都エ芸繊維大学を卒業。株式会社モス・アドバタイジング勤務を経て、1986年独立。1988年、アウトサイドディレクターズカンパニー(OSD) を設立し、以降は広告企画・制作、映像・CG・音楽を手がけながら、CDジャケットのデザイン、書籍や雑誌の企画・制作、そのほかキャラクタデザインや空間プロデュース、ギャラリーの運営など、さまざまな活動を行う。1993年,ソニー・ミュージックエンタテインメント主催の Digital Entertainment Program'93(DEP'93)において、プロコース人物部門で最優秀賞を受賞。1994年、MMA Multimedia Grand Prix '94にてMMA アーティスト賞を受賞。1995年冬には、1994年発売の[東脳」が全米にて発売される予定。