EMAIL INTERVIEW 今月の御言葉 デジタル作品をつくることは自分の脳の中を探検することだ FROM:佐藤理 ⸺マルチメディア作品を手がけるようになったきっかけは何ですか? マルチメディア作品というと、『東脳』(ソニー・ミュージックエンタテインメント・9,800円)が最初。以前から、デザインや写真、音楽など、いろいろな分野で仕事をしてきたが、それを統合できるメディアがあらわれた。それがマルチメディアというか、デジタルの世界だった。 デジタルの世界で、ものづくりをするようになったのは、グラフィックス作品としてキャラクターをつくるようになったことから。キャラクターができたら、それを動かしたくなった。キャラクターが動くと時間朝ができる。時間軸ができると、ある種の世界を表現できるようになるーーそうしてできたのが『東脳』だ。 ⸺すると、初めからあのイメージがあって、それをデジタルで展開していったわけではないと‥‥。 コンピュータでものをつくっていくという行為は、自分の脳味噌の中身をディスプレイに映し出して、その中を歩くようなところがある。 画面に触発されるというか、自分の脳と対話をしているというか‥‥。一言でいうなら、自分の脳の中の探検。 ⸺「自分の脳の中の探検」という言葉が出ましたが、アナログの世界でものづくりをするのと、デジタルの世界でもの づくりをすることの違いは? デジタルの大きな特色は、そこで扱う材料をすべて並列に組み替えてしまうこと。写真でも、音楽でも、グラフィックでも、みんな0と1の信号に変換する。まるで原子や分子のように並列にして、それを自由に組み合わせることができるようにする。そこがいい。 たとえば、10月発売予定の音楽CDの中では、鼓号で演奏された音楽を使っているが、それは鼓弓奏者に自由に演奏してもらったものをサンプリングして、その中から自分で気持ちよいと思った部分を集めて再構成した。自分は特別な音楽の教育を受けたわけではないけれど、デジタルにすることで、自分が心地よいと感じる音楽を簡単につくり上げることができる。 こんな風に、音楽に限らず、さまざまな素材の気に入ったところを簡単に組み合わせて再構成できるところが大きな特徴だと思う。 いいかえれば、脳にとって気持ちのよいことがすぐにできる⸺それがデジタルの世界だ。それからもう1つ。 たとえば、グラフィック作品を例にとって考えてみるといい。 アナログの場合、頭の中でイメージを考えて、それを紙の上に手で描いていく。頭の中のイメージを紙の上に再現していくわけだけれど、描いたイメージにズレがあった場合、消して書き直すことになるが、すぐには消せないし、消したとしても描いたイメージが残ってしまう。それが、最初に脳の中に描いたイメージに微妙に影響を与えてしまう。 ところが、デジタルなら、描いたものを瞬時に消せし、そのイメージに引きずられることがない。何回か描き直すうちに、脳の中にあったイメージに最も近いものが描き出せる。つまり、デジタルを使えば、脳の中で思い描いたイメージが、よりストレートな形でつくり出せるというわけだ。 ⸺ということは、デジタル作品なら1人でさまざまな可能性が追求できると‥‥。 決して簡単ではないが、その気になれば1人で何でもできてしまう。 しかし、お金を出して買ってもらえるような作品をつくるためには、それなりのスタッフが必要だと思う。グラフィックや音楽、ストーリーづくりなど、あらゆる面で1人の人間がすぐれた才能を発揮することは難しい。自分でいちばん才能の発揮できる部分を核にして、その他の分野はよりすぐれた才能の持ち主を起用する。そういう分業スタイルで作品づくりにあたれば、それだけ高い水準の作品を完成させることができる。 そんな風に作品の質を高めると同時に、自分の持っている個性、感性で勝負するという姿勢が大切だと思う。 8月には『東脳』が『EASTERN MIND』としてアメリカで発売されるが、発売前からたくさんの向こうの雑誌の取材を受けた。いずれの記事も好意的に取り上げてくれたが、これは『東脳』の持っている東洋的な部分に何かを感じたからではないかと思う。描いているグラフィックそのものは特別東洋的というわけではないけれど、そこで語られている世果が彼らには非常に東洋的に感じられるのだろう。 アメリカでは、資金と時間、人材を投入して作品づくりを行ってている。そういうものと競争していくためには、自分の個性や感性を明確に打ち出した作品づくらをしていく必要があるのではないかと思う。 ⸺最後にネットワークについて‥‥。 10月に音楽CDを出すことになっていて、いまその制作に追われているが、その中に入れる曲の1つはインターネットを使ってつくったものだ。 ニューヨークにいる坂本龍一さんにお願いして、曲になる前のフレーズというかピースをいくつかMIDIデータにして、インターネット経由で送ってもらい、それをこちらで最終的な曲に仕上げるという試みを行った。 こんな具合に、ネットワークの広がりによって、さまざまな可能性が広がってくると思う。 テクノロジーの進歩によって、ネットワークの活用の仕方はどんどん変わっていくと思うが、結局、ネットワークとは人と人とのつながりではないかと思う。自分に明確なコンテンツさえあれば、ネットワークを通じていろいろな人が集まってくるだろうし、そこからまたさまざまな連携が生まれてくる。 いまはインターネット、インターネットと騒がれているが、そういう風潮に流されずに、自分の中にしっかりとしたコンテンツを持つことが大切なことではないかと思う。 プロフィール 佐藤理(さとう・おさむ)1960年、京都生まれ。アウトサイドディレクターズカンパニー(O.S.D)代表。グラフィックデザインを中心にCGイラストレーション、映像、音楽、出版、展覧会など、あらゆるジャンルのクリエイティブワークを手がける。DEP'93最優秀プロジェクトとして、 インタラクティブ・アドベンチャーゲーム『東脳』をCD-ROM化。第2弾の『中天』がまもなく発売される。