VOICE 佐藤 理 デジタルを使うと感覚でモノを創ることができる インタビュー 編集部 interview: CAPE-X 写真 八木澤芳彦 photo: Yoshihiko Yagisawa ⸺唐突だけど、デジタルとの出会いっていつごろだった? 「デジタル?デジタルとの出会いと言えば、デジタルの腕時計(笑)。僕らの年代の人は誰でもそうだと思うけど。小学校のころだったっけかな、デジタル腕時計がはやったのは。あのころって、デジタルって言葉はもちろんのこと、アナログって言葉も知らなかったけど、あの時計のおかげで“デジタル”という言葉を知ったよね。と言っても、デジタルとアナログの違いなんかわからなかったけど。たんに数学で出てるのがデジタルで、針があるのがアナログとしか捉えていなかったな」 ⸺あのころって、デジタル腕時計持っていると、なんとなく格好良 かったよね。 「そうそう。高かったとかいうこともあるんだろうけど。それがデジタルと言われるものとの最初の出会いだね」 ⸺その後のデジタルとの付き合いは? 「仕事してからだから、ごく最近のことだね。コンピューターらしきものを体験したのは音楽がいちばん最初。『YMO』がはやったころのテクノが好きで、自分でも音楽をやってみたいなって思っていたんだ。だって、楽器が弾けなくてもシーケンサーに打ち込むということで、音楽を創ることができるようになったんだからね。練習だけが上達への道じゃない、自分の中にあるものを感覚で創ることができるようになったんだなって思って音楽を始めたね」 ⸺『YMO』のころっていうと、まだアナログシンセサイザーが全盛期だったでしょ。 「もちろん。アナログシンセサイザーしかなかった」 ⸺で、そのあとヤマハから『DX7』ってデジタルシンセサイザーが出てきたじゃない?どう思った? 「今 でも持ってるよ。そこにあるけど」 ⸺あ、ほんとだ。 「でも、『DX7』ってデジタルシンセサイザーと言われているけど、今出ているようなサンプリング音源によって構成されているデジタルシンセサイザーとはまた違ったものだった。ただ、それまでのアナログシンセサイザーでは出せなかった音を簡単に出すことができるようになったことはショックだったよ」 ⸺時計の次は、音楽を通して、意識せずにデジタルと関わるようになったんだね。 「音楽をやりたくて、そして興味があったっていうのはもちろんだけど、それがコンピューターがなければできないってこととは違っていた」 ⸺コンピューターに対するイメージってあった?取っつきにくそうとか。 「そんなのは全然なかったね。テクノに限らず、音楽製作に自然とコンピューターが使われるようになってきていたことを知っていたから、デザインの世界もそうなるだろうなって思っていた。ゆえに、コンピューターに向かうことはごく自然なことだったよ」 ⸺そういえば、コンピューターって、お祭り騒ぎになっている雰 囲気ってあるけど。 「それはしょうがないでしょ。資本主義の中では、ありとあらゆることが起きて当たり前だしね。もちろん、それはおもしろくなければ自然淘汰されていくものであるし、それって、今 までの歴 史をみてもたんなる通過点に過ぎないはずなんだ」 ⸺今、マルチメディアって言葉がでてきたけど、どう考えてる? 「去年、『東脳』が出たときに受けたインタビューでいちばん多かった質問がそれ。で、今年はインターネット(笑)。それがさっき言ってたお祭り騒ぎを象徴してるよね。自分もその中にいるわけだし、そういうものを利用しているから、それ以上のことは期待していない。インターネットに関しては、最初すごいなって思った。ネットサーバーにアクセスできるわけでしょ。それを考えるとすごいことだなって」 ⸺音楽CD『EQUAL』について聞かせてくれる? 「創るときに考えたことは、まず、根底に僕がいて、そこで国とか関係なくいろんな人とつながっているってこと。で、文化 や宗教観が違うはずなんだけど、ってことは、つまり音に関する感覚も違うんだろうなって思ったのね、で、そういう人たちから、音の素材を送ってもらって、テクノにできないかなって思った。あと、それだけだと難しいかなと思ったんで、その場にいなくても、インターネットを使って、一緒にコラボレーションできないかなと考えた。自分の部屋にいながら創るテクノをベッドルームテクノって言うんだけど、そういうことをインターネットを使ってできないものかなと。『EQUAL』ってタイトルを付けたのは、世界中の人が持っている目に見えないイメージを、1回デジタルにすることで、共用 できるんじゃないかなって思ったから。ニューヨークの坂本龍一氏からMIDIデータをもらったりしてるよ」 ⸺そういった創り方だと、今までは違ったものが、自分の中から出てくるとかってことある? 「というよりも、インターネットを使っただけで、僕みたいなミュージシャンが坂本さんのような人と一緒に作品を創れたこと自体驚きだよね。だけど、僕はそれを大胆にも変 えてしまったり、足してみたり、まさに坂本さんの作品であっても、データになってしまえば、ただの0と1だから、それこそ“EQUAL”なんだよね」 ⸺で、21日に発売された『中天』だけど、ちょっと話を聞かせてくれる? 「『中天』においては、わりと自分の体験を基にしているところがあるんだ。金を稼ぐにはこうしなきゃならない、それをするには、まずあれをしなきゃならないっていうようなね。あまりゲームもやらないから、過去に大ヒットしたゲームがあっても、あ、そうなの?と言える程度 で参考にはしていないんだ。今までにない世界を創るってことは、とっつきにくいってことでもあるんだよね。やっぱり、安 心できるのは、実在する世界で、人間が主 人公になっているゲームでしょう。そういう意味からは、『東脳』や『中天』は不利だね。だけど、そういう安 易なことはしたくなかった。で、そういうスタンスでいても、おもしろがってくれる人がいるから、僕らにとってはいちばんうれしいことだよね」 ⸺リリースにインタラクティブって言葉があったんだけど、『中天』におけるインタラクティブ性ってどんなことなの? 「インタラクティブアドベンチャーかな?なんで言うのかな、この手のゲームをそういうふうに言うんじゃないの。意味というよりも、ジャンルわけに使う言葉ってこと。クリックしたら何か変われって程度で、慣用句的に使っているだけだよ」 ⸺じゃ、インタラクティブ性があるってどういうことだと思う? 「なんか、こっちが能動的なことをすると、それに対して反応が返ってくることでしょ」 ⸺それって、機械に対してってこと? 「いや、そんなことはない。それはそのとき決めればいいことで、たとえば、対人間であってもいいと思うんだけど、それじゃインタラクティブって言う必要もないんだね(笑)。だって返事をしたからってインタラクティブだとは言わないでしょ。そう考えると人生すべてインタラクティブだろうね」 OSAMU SATO マルチメディア・アーティスト。'93年に開催された『第1回デジタル・エンタテインメント・プログラム』において、『東脳』で最優秀賞を受賞。10月21日に、『東脳』の続編にあたる『中天』を発売。まだ、坂本龍一との合作で話題のオリジナル・テクノCD『EQUAL』を発売したばかり。