クリエイター CloseUp 骨董とテクノを平等に愛する 佐藤 理 昨年の「東脳」に続き「中天」を発表する佐藤理氏。今回も原案からキャラクターデザイン、ゲームデザイン、AD、音楽まで監督としてチームをまとめる彼に、創作の秘密を聞いた。 「東脳」が地上だったから今度の「中天」は天上の世界が舞台なんだ。グラフィック的に見てもゲーム性で見ても「東脳」より凄いよ。 ⸺「東脳」に続く3部作の第2弾「中天」がまもなく発売されますが、今回も東洋っぽいタイトルですね。 佐藤 とくに東洋を意識してるわけじゃないんだけど、僕が東洋人であることは確かだから、自分で気持ちいいと感じるものが自然に東洋的な形や色、音階であったりするんじゃないかな。人のマネをしないで、自分のオリジナリティを追究していくとこうなるだけなんです。今度アメリカで「東脳」が発売されたんだけど、2年前に作ったものがまだアメリカでウケてるのは、技術的なことではなく、全くそれが未知なるものだったからだと思う。 ⸺「中天」はどういう作品ですか? 佐藤 「東脳」が地上だったから今度は天上の世界が舞台。「中天」という世界が宇宙にあって、あるときその世界が秩序を乱し、東脳の島にある部品が落ちてくるんです。で、主人公はその部品が変身した乗り物に乗って「中天」に行き、平和を取り戻す、という物語。「東脳」に比べてグラフィックや動きのグレードが上がってるのはもちろんだけど、ゲーム的な難易度も上がってます。 ⸺佐藤さんがマックと出会ったのはいつですか? 佐藤 初めて買ったマックはマックIIだから7、8年前ですね。グラフィックデザイナーとしてフリーで仕事をしてたんですが、音楽系の仕事が多くて、ミュージシャンって英語の名前が多いから、ロゴを作るときに便利じゃないかなって思って。コンピュータとかテクノな感じは昔から好きだったし。マックIIはその頃、プリンターとかも全部合わせると400万円くらいしたんだけど、車を買うつもりでためてたお金で買いました。グラフィック・デザインにマックを使う初期の頃だったから面白がられて。そのときに作ったタイポグラフィが、キャラクターに見えるっていわれて、それで次にキャラクターを作ったんです。それたらそれを動かしたくなって、動くようになったら次はそいつらが生きる世界を作りたくなって、「東脳」につながっていったんです。 ⸺いつもどんなふうに制作するんですか? 佐藤 僕は、コンピュータに向かってから、全部作り出すんですよ。それまでは何も考えない。モニターに写った自分の頭と対話しながら、自分を探検していくような感じで作っていく。どんどん連鎖反応でできていくので、好きな色や形、構図だけをモニターの上に残していくというやり方。キャンバスにそのやり方で描いてるど、グチャグチャになるけど、コンピュータだと取捨選択できるから、僕には合ってますね。ただやり始めてみないとどうなるかわからないので、スタッフは大変みたいですけど(笑)。 ⸺コンピュータを使うようになって、仕事がしやすくなりました? 佐藤 今まで別々にやってたことを一つの場所でできることが、僕にとっては大きいですね。今、音楽のCDも作っていて(10月21日発売)、いろんな国の人が参加してるんだけど、坂本龍一さんからインターネットで送ってもらったMIDIのデータも、中国の名人が弾く胡弓の音も、街の音も、沖縄の歌も、インドのパーカッションも、いろんな国の音楽のピースを、ここで僕がパズルのように作り上げていくことができる。デジタルにすることによって、人種も国家もすべての境界や上下関係をなくして、音も絵もテキストも、すべてを平等に扱える。僕は楽器ができないけど、こういうやり方なら音楽を作ることができるし、表現の幅が広がりますね。 ⸺評判になったCD-ROMは一応見てますか? 佐藤 全然見ないですね。CDなら山のように買うんですけど、CD-ROMはほとんど買わない。ゲームもあまりやらないし。僕はゲームを作るプロじゃないから、ドラクエやファイナルファンタジーに挑戦しょうなんて全然思ってないし、ゲームというジャンルに限定したものではなく、自分独自のものを作ろうっていうことだけですね。ただ、人生ってロールプレイングゲームですから、ゲームも人生と同じように作っていけばいいんだ、とは思ってますけど。今、エデュテイトメントのアイデアがあって、「中天」が完成したら取りかかろうと思ってます。かわいくて、ちょっとキモチ悪いキャラクターを作りたいんだ。 ⸺佐藤さんのユニークの作風のバックグラウンドを知りたいんですが……、趣味は何ですか? 佐藤 趣味がみんな仕事になちゃったんで、あまりないんですけど、今は料理。これはちょっと自信がある。なんでも作ります。だから太ちゃって(笑)。あと骨董が好きで、一時期ハマって買ってたらお金がなくなったから、今はやめてます。家で使ってる食器は全部骨董ですね。とくに古伊万里が好き。家の中も障子があって和箪笥があって、和風ですね。また、僕は京都の出身なんですけど、今でも京都にはよく行くんですよ。実は、「中天」のテーマソングもそこで作ったんです。これからは混み込みとした東京ではなく、自然の中のいい環境で制作して、営業部隊だけ都心において、ネットでつないでやればいいと思う。だんだんそうしていければいいですね。 (聞き手・構成 平林享子、撮影 木田新一) 佐藤理(さとうおさむ) 1960年京都生まれ。祖父、父ともに写真家で、芸術的環境に育つ。79年から1年間渡米。嵯峨美術短期大学、京都エ芸繊維大学卒業。(株)モス・アドバタイジングを経て86年に独立。88年アウトサイドディレクターズカンパニー(OSD)設立。93年ソニー・ミュージックエンタテインメント主催のDigital Entertainment Program 93において、人物部門最優秀アーティストとなる。94年にはCD-ROM「東脳」がヒット。10月21日には3部作の第2弾「中天」が発売される。アメリカ版「東脳」(タイトル名は「EASTERN MIND」)も8月に発売された。 1、2、3ともに「中天」の画面は開発中のものです。 ©︎Sony Music Entertainment(JAPAN)Inc. 「中天」はMac版、Win版 各7,800円(税 別) 10月21日発売予定。 問い合わせ牛:ソニー・ミュージックエンタテインメント TEL:03-3475-6900