クリエイター CloseUp コンピュータは潜在能力を引き出してくれる 佐藤 理 かわいくて、面白くて、ちょっとコワイマザー・グースの歌のように不思議な世界。佐藤理さんの「ローリーポーリーズの七転び八起き」は大人から子供まで理屈抜きで楽しめる、ことわざを使ったエデュテイメントソフトだ。 文/平林享子 撮影/松崎信彦 子供向けだからって手を抜くのはカッコ悪い。アーティストとして、子供にも大人にも楽しめるものを作りたかった。人間にはいろんな部分があって当然で、ブラックな要素もあえて残した。 ⸺エデュテイメントソフトを作ろうと思ったのはどうしてですか? 佐藤 今、エデュテイメントソフトがいろいろ出てますけど、どれも「子供だまし」というか、ビジュアルも音楽もあまりいいと思えるものがなくて。子供のものって、一番簡単に作れる感じがするんだろうけど、本当はそうじゃないと思う。別に僕は教育者でもないし、それほど大上段に構えて考えてるわけではないんですが、子供向けだからって手を抜くっていうのはカッコ悪いなと思ったんです。あと、外国の美術館に行くと、ミュージアムショップにきれいなオモチャが売ってるでしょう。いろんなアーティストが子供のためにオモチャを作っていて、そういうのが好きなんです。僕もアーティストとして、子供も大人も楽しめるものを作りたくて。それをたまたまCD-ROMで作った、ということなんです。 ⸺具体的には佐藤さんはどの部分を担当してるんですか。 佐藤 キャラクターのデザイン、全体的な構成、それからことわざを選んだり、キャラクターのテーマ音楽も全部僕が作ってます。基本的にはスタッフワークなんで、それ以外の作業は、うちの会社のプランナーやグラフィッカー、プログラマーたちがやってます。それをまた僕が軌道修正するって感じですね。今は僕一人が個人でできることよりも、スタッフワークでみんなと一緒に作っていくことが楽しいんです。学生のクラブ活動のような感じですね。 ⸺この作品は、ローリーポーリーズという8匹の動物が主人分で、26個のことわざと、それにちなんだショートストーリーで構成されるわけですが、それはどうして思いついたんですか? 佐藤 A〜Zまでのアルファベットを組み合わせた「THE QUICK BROWN FOX JUMPS OVER THE LAZY DOG」という英文があって、それを元にA〜Zで始まる単語を使ったことわざの話を作ろうというのは、最初のアイディアとしてあったんです。この英文の中にキツネとイヌが出てくるから、もっと増やして8匹の動物のキャラクターを主人分に考えたんです。 ⸺なぜ、ことわざを? 佐藤 それぞれの話にちゃんとした落ちをつけたかったんです。全く勝手な話だと、うまく落ちが伝わらないかもしれないから、ことわざがいいんじゃないかと。一応はエデュテイメントなので、ことわざというのは適してるし、外国でもいろいろことわざはあるから、それと日本のことわざを対比させたら面白いんじゃないかなと思って。 ⸺かなり、本格的なバイリンガルですね。英語の勉強のためというより、日本語圏だけでなく、英語圏でも通用するものになっていると思うのですが。 佐藤 そうですね。これで勉強しても、英語が話せるようになるとは僕も思ってないんです。でも、英語でもことわざでもいいかど、なんとなく興味を持ってくれて、次の行動を起こすための人り口になればいいかなと。 ⸺かわいいだけの世界ではなく、ちょっと怖い部分もこの作品の魅力ですね。 佐藤 結構、ブラックな笑いがあるんですよ。でも、子供だからってオブラートに包まないで、できるだけ見せた方がいいと思うし、これを見ていろんな反応が起こる方がいいと思う。 ⸺エデュテイメントというと「無菌状態」になりがちですが。 佐藤 そういうのは、あまりやらなくてもいいというか、僕にはできないんですね(笑)。自然にブラックな方へ行ってしまう。でも、昔の童話なんてかなり残酷だったりしますよね。人間ですから、いろんな部分があって当然だし。あと「笑える」という部分には、かなりこだわってます。関西人の意地にかけても笑わせてやろうと(笑)。 ⸺主人分たちのディテールにもすごく凝っていて、そういう部分で、大人も十分楽しめるものですね。 佐藤 外国で見せたら、やっぱり大人が喜びましたね。子供にはまだ見てもらってないんで、どんな反応が反ってくるのか楽しみなんですけど。子供用にレベルを下げる必要は全くないですからね。よく意味はわからなくても、面白いものは面白いと子供は感じ取るはずだし。 ⸺秋には、シリーズの第2弾が出るそうですが、それはどんな話になるんですか? 佐藤 ローリーポーリーズたちが世界旅行するアドベンチャーゲームです。飛行船に乗って、いろんな国を冒険しながら、それぞれの目的を達成していくんです。子供が遊びながら、自然にいろんな国の雰囲気をわかるようにと考えたんです。あと、ゲームって大作になるほど同じムービーが何度も出てきたりして、僕なんかは途中で飽きてしまうんですね。だから、これは子供がやっても、途中で飽きないで最後まで楽しめるようにしようと思って作りました。きれいなグラフィックスと楽しい音楽で、ちょっこっと勉強になってという。ただ、スタッフがそれぞれみんな、すごく深いところまで作ってしまって、全部合わせるとすごいボリュームになってしまって。でも、何度見ても楽しめるものになってると思いますよ。 ⸺コンピュータは道具ではなく、潜在能力を引き出すものだというのが、佐藤さんの持論ですよね。 佐藤 僕の場合、こういうものを作ろうと考えてからではなく、白紙の状態でコンピュータに向かって、いじっているうちにできるんです。だから、僕の頭だけで作るイメージ以上のものがそこに出来上がっているような感じがするんですよ。それは単なる道具ではないんじゃないかと。 ⸺今後の予定を教えてください。 佐藤 秋にプレイステーションから、夢を体験するゲームを出します。巨大なポリゴン空間で、本当に夢を見ているような不条理な世界を体験できる、すごく不思議なゲームになると思います。あと、「理念」というインディーズのレーベルを作ったんですが、ロンドンと日本をつないで、面白い音楽を作っていこうと思ってます。個人的には、油絵を描いてみたいと思ってます。もちろん、コンピュータで作ることは続けていきますが、それとは全く別のところで、自分に何ができるのかやってみたいんです。 1 8匹のローリーポーリーズたちが、26のアルファベットの意味を身を持って解説する 2 佐藤さんのお気に入りのキャラクター「ジャンピング ジャック ブー」 3 ローリーポーリーズは、ユニークな動きと表情で独特の世界を築く 4 「英語に興味を持ってもらえれば……」と佐藤さんが言う、英語の解説 「ローリーポーリーズの七転び八起き」 Mac・Win(ハイブリッド版) 5,800円 問い合わせ先:シンコー・ミュージック TEL: 03-3295-4191 ©1997 SHINKO MUSIC PUB.CO.,LTD 佐藤理プロフィール 1960年京都生まれ。'79年より1年間アメリカに滞在。京都エ芸繊維大学、嵯峨美術短期大学卒業。(有)アウトサイド・ディレクターズ・カンパニー(O.S.D)を設立。'93年DEPの作品部門・人物部門の最優秀員、'94年マルチメディアグランプリ'94のMMAアーティスト賞を受賞。音楽、CG、映像とメディアにとらわれない企画・デザインを多数手がけている。 ホームページのURLはhttp://www.compu-osd.com/