WIDE SHOW INTERVIEW 一本の線からすべてが生まれる、あるアーティストの世界 佐藤 理 佐藤理氏の作品を最初に見たのは、1992年のアドビデザインコンテストで特選を受賞された時だ。それ以来、強烈な印象が残っている。まさに彼の手によりIllustratorで作られた線の集合体は、コンピュータを使う万人が考えそうでいて、なかなか思いつかないアイデアの塊だ。構成されている部品だけを取り上げれば、単純な線や円でしかないが、その組み合わせの中に佐藤氏の個性を見てとることができる。一目で彼の作品と分かるように、その作品にもはっきりとした自己主張があるのだ。 撮影=広路和夫 ●サラリーマンは1年半、流れに乗って独立 ⸺以前はどんなお仕事をなさっていたんですか。 佐藤理氏(以下佐藤と省路)⸺僕が仕事をし始めてから7年になるんですが、大学を卒業してからモス・アドバタイジングという広告制作会社に入ったんです。僕が入る前に浅井慎平さん等がいらした会社です。まあ、CMみたいな映像を作りたいな、と思って入ったわけです。  学校ではシルクスクリーンの版画をずっとやっていて、趣味と実益をかねて音楽とかも作っていました。NHKの紀行番組の音楽とかもやりましたよ。それはシーケンサーを使っての打ち込みで、コンピュータらしきものをクリエイティブな作業に取り入れるということの最初でしたね。  シルクスクリーンで作った作品と自作音楽のカセットをパッケージして流通させたり、いわゆるインディーズというヤツですよ。そういうのを作ってたんで、就職の時にはそんな作品たちを持って会社巡りをしたんです。 ⸺そこでは何をなさっていたんですか。 佐藤⸺そこの会社ではあまり役に立っていない(笑)。その配属になった部署が、変わった人間を集めてきたところだったんですよ。名前を表に出してできる仕事をやるような部署でね。でも、だいたいそこにいる人たちというのは、ある種個性的な人たちばかりで、結局その部署自体が長続きしなかった。皆辞めてしまって自然消滅。7人いたんですが、いまではエディターやカメラマン、放送作家になってしまった人までいます。僕は新入社員だったわけだけれど、皆辞めちゃったから、同じノリで辞めてしまっていきなりフリーですよ(笑)。 ⸺それから7年ですか。順調にここまで? 佐藤⸺一番よかったのは、ちょうど景気がよくなる頃でしたからね。バブルの時はやっぱり景気が良かったですね。その時期に会社の基盤を作れた。投資をしたとかいうのではなくて、実際に必要なコンピュータを買ったわけで、今なんか社員の数より、機械の数の方が多い(笑)。無茶苦茶忙しかったけれど、作品を作ろうというそれなりの余裕がありましたからね。 ●『B-PASS』のロゴデザインがMacに導く 佐藤⸺一人でやっている時に『B-PASS』といぅ音楽雑誌のアートディレクションをやらないかという話がきたんですよ。でも一人じゃできっこないので、なんとか二人確保して仕事場も借りて、デザイン事務所っぽいものを作りました。『B-PASS』』というのは『PATi PATi』の対抗で出たもので、音楽誌でありながらもちゃんとスタイリストやヘアメイクも用意して、スタジオで撮影したりして、写真にお金と時間をかけて作ってたんです。それが結構面白くて。  バンドブームのちょっと前で、バンドがたくさん出てきた頃でね。今でもそうだけど、そのバンドのほとんどが横文字。それで、バンドごとにロゴを作るわけですよ、雑誌用に。その数がね、一冊やるごとに40組くらい。それでタイトルも英語。単に写植でやるのはつまらないということで、モンセンという書体見本帳があるんですけれども、それで組んだり。コピーとって変形させたり、貼りつけたりしてたんですよ。 ⸺雑誌は月刊誌ですよね。 佐藤⸺そうですよ。40個を3人で作りながら、しかもデザインして、アートディレクションもして撮影も立ち合ったりしてたら、もうタイヘンですよ。すっごいタイヘン!  そんな時期に、画材屋のいずみや(今のToo.です)でやる展示会に呼ばれて行ったんですよ。Macという名前は聞いたことがあったんだけど、何ができるかは知らなくてね。ちょうどIllustrator88とかレトラスタジオとかがあって、MacIIが出た直後くらいですかね。  で、英語のロゴの問題があった時期ですから、これがあれば凄く楽だなあと思いましてね。ロゴ考えるだけでもね…。 ⸺これは買いだな、と。 佐藤⸺う〜ん(笑)。車を買おうと思ってたのをやめてね。買いましたよ。40MBのハードディスクで5MBのRAMのMacIIを、あとLaserWriter NTX-JとスキャナGT-4000。全部で400万くらいでしたよ。 ●デザインでのMac ⸺コンピュータを使い始めたのは音楽の方が先ですが、デザインの分野で使用する際にも抵抗はなかったようですね。 佐藤⸺全然なかったですね。デザインの傾向や雰 囲気というのは、Macがない時代と今と基本的なところで一緒なんですよ。むしろ楽しかったですよ、仕事の効率もよくなったし。  作品を作る段階になって初めてコンピュータと対話するような感じで接しましたね。基本的に作品とか作るときに、僕は何も考えないんですよ。 ⸺イメージとか浮かばないんですか。 佐藤⸺浮かばないし、浮かべないようにしている。仕事とかだとクライアントがいるからしようがないけど。絵の具塗って切って貼ってみるとか、とりあえず始めてみるんです。それでやりながら、ああしようとか、この方がいいとか出来てくるんだけど、絵の具なんかだとドロドロの壁みたいになっちゃう。コンピュータの場合は戻れるし、消せるじゃないですか。何度もやり直しが利くので自分の好みがはっきりしてくるし、色や形の組み合わせが複合的に発展させていけるんですよね。 ⸺佐藤さんがお出しになった『コンピュデザイン』という本は、コンピュータで絵を描くということを非常に面白く解説している本ですよね。 佐藤⸺アルファベットの作品や、平面で作ったもの、ソフトで言えばIllustratorで作ったものは、自分の手法として既に確立したと思ったんです。それをひとつにまとめてみようかと思ってね。所詮、僕の作品集を出したところで売れるとは考えられないから、そういうのは自費出版で1,000部くらい作って、欲しい人に売ればいい。マスメディアを使って僕が言えることがあるとすれば、今まで培ってきたノウハウとか考えたことを今までにない形で伝えられればいいと思ったんですよ。  普通デザインする場合に、鉛筆で描いたラフから始まったりするけれども、僕は何のイメージも持たずにコンピュータに向かいますから、結構その場の考ぇ方で形が作られる。要するにコンピュータを使えば、線を引くとか丸を描くとか、四角を描くとか基本的な図形を描くということ、何度曲げるとかいくつ並べるとかそういうすべてのことが誰が使っても平等にできるわけですよ。そこが今までと大きな違いだと思うんです。ロットリングで図形を描いたりすれば、どうしても上手な人と下手な人で差が出てくるし、下手だったらそんなことしようとも思わない。コンピュータだったらちゃんとできるわけですよ、そこまでは…。  図形っていうものが、どういう成り立ちでできているかを解析していったら、点の集合だったり、結構単純な組み合わせでできるんじゃないかということでね。で、それを系統立てて僕がやった方法で作ってみようか、ということで出来たのがあの本なんです。 ●平面の素材からさらに新しい発想が生まれる ⸺何か新しい作品が出来たということなんですが、どういったものなんですか。 佐藤⸺前か新しい作品が出来た数字のデザインやアルファベットの作品に、線や三角や丸を新たに組み合わせて架空の生物を作ったんです。それを『アノニマス・アニマルズ』ということで展覧会をした。やっぱり生物ですから、動いてほしいな、生きてほしいなと思ったんです。それで今度出たビデオ『コンピュムービー』では「アルファベティカル・アニマルズ」というAからZまでの生き物が音楽に乗って動き回ると。Illustratorで作ったときはモノクロだったんですが、それを全部カラーにしてDirectorで動かして、さらにQuickTimeムービーで編集もしたビデオなんです。これは音楽を、僕と大学時代からの友人、成田忍とのユニットでやってます。その他に、ニューヨークの実写の映像を取り込んだものがあって、この音楽はGOH HOTODAさんです。映像に関してはすべて僕が監督しました。 ⸺他にもゲームがあるそうですね。 佐藤⸺そう、動きを付けるといったことの発展型ですよね。キャラクターを立体にしても面白いということで。キャラクターという言葉には、文字という意味と性格という意味があるじゃないですか。その性格を持たせてみようと考えたんです。名前までつけてやろうじゃないかと。じゃ、そのキャラクターが棲む、それ用の世界が要るなということになった。その世界をつくるにはゲームがいいだろうと。  もちろん新しく作ったものがほとんどですが、もともとの僕の形から生まれたキャラクターを全部立体化して、そういう世界観の中でそのキャラクターたちが生まれ変わったり、いろんなところで出てきたりするというゲームなんです。 ⸺じゃあ、本当にそのゲームの中に佐藤さんの世界があるという感じですね。楽しみなゲームです。期待しています。(インタビュー・Hope) information VHSビデオ『コンピュムービ』 ポリスターレコードより発売中 ¥4,800 (30MIN.) Mac用CD-ROMソフト『東脳』 4月に発売予定 [pg. 7 top caption] 新作ビデオ『コンピュムービ』 [pg. 7 bottom caption] アドベンチャーゲーム『東脳』。これは、東洋的なものの考え方や世界観をもとにオリジナルストーリーを作った。左側が佐藤氏の元の作品で、石側がキャラクターを立体化 したもの